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はじめての細胞内Ca2+ 測定プロトコル

はじめての細胞内Ca2+ 測定プロトコル

目次

Tはじめに

UCa2+ プローブの選択

V 測定装置の選択

W プローブの溶解方法

X 培養細胞を用いたプレートリーダー細胞内Ca2+ 濃度測定例

Yトラブルシューティング

Z 関連製品

[ 参考文献



Tはじめに

19世紀後半、Ringerらによって筋肉の収縮にCa2+ が関与していることが提唱された。その後の研究により、生命機能を理解する上でCa2+が重要な役割を担っていることは推察されたものの、細胞内Ca2+([Ca2+]i)の濃度は非常に低濃度(数百nmol/lオーダー)ということもあり、その挙動を観察することは、研究者の長年の夢であった。
1980年、カリフォルニア大学のTsienらは、細胞内Ca2+測定方法として、Quin2を用いる方法を発表した1)。彼らの開発した検出試薬(Ca2+ プローブ)は、細胞と共にインキュベートするだけで、細胞の中に取り込まれ、かつCa2+ 濃度に応じて蛍光強度が変化するといった優れた特徴を持っていた。その後、つぎつぎと開発されたCa2+ プローブや光学機器の技術的な進歩によって、細胞内Ca2+のイメージングは「手の出しやすい実験」とまで言われるようになった。
確かに特殊な装置を用いることなく、蛍光強度変化によって細胞内のイメージングが行える為、今までCa2+ 濃度測定を行ったことがない研究者の方にとっても、試みやすい実験手法ということが言える。しかしながら、小社には細胞内Ca2+ の測定を試みた研究者の方から、実験が上手くいかないといったご相談が頻繁に寄せられる。実際、Ca2+ プローブの性質よく把握しておかなければ、イメージ通りに実験結果を得ることが難しいのも事実である。
本稿では、Ca2+ プローブを取り扱う小社によく寄せられるCa2+ 濃度測定のご相談を基に、その解決方法や実験上の要点、トラブルシューティングの方法などを初心者の方々向けに分かり易くご紹介したい。



UCa2+ プローブの選択

Ca2+ 蛍光プローブには、様々な種類がある。したがって、初心者の研究者の方には、何を選択すべきかを迷われる方も多いようである。以下にCa2+ プローブの選択の要点を述べる。


1.AM誘導体か?
Ca2+ 蛍光プローブには、Fluo 4-AMFura2- AM のように、AMという名前がついている。これは、アセトキシメチル基の意味で、Ca2+ をキレートする部分(カルボキシル基)が、アセトキシメチル基(AM基)で保護されていることを意味する。なぜ、AM基で保護をするのか?それは、細胞への透過性を持たせる為である。言い換えれば、カルボキシル基がAM基によって保護されていないプローブは、細胞への透過性が極端に低いので、細胞内のCa2+ 濃度を測定したい場合は、必ずAM体をご使用いただきたい。
プローブが細胞内に入ると、AM基は細胞内エステラーゼによって加水分解を受け、Ca2+ をキレート出来る構造となり、且つ細胞外へ漏れ出しにくくなる(図1)。
2.手持ちの装置に適合しているか?
蛍光物質は、それぞれ特有の極大励起波長、極大蛍光波長を持つ。極大励起波長付近の光で励起しなければ、その蛍光物質は効率よく蛍光を出さない。広い波長領域の励起光を照射できる装置があれば理想的だが、通常はフィルターやレーザーによって、照射する励起光波長が限定されている装置がほとんどである。したがって、手持ちの装置が、目的の蛍光物質に合った波長で励起でき、出てきた蛍光を効率よく測定できるかを、判断する必要がある。
Fluo3やFluo4は、汎用されるフィルター(顕微鏡であればB励起、485 nm付近のフィルター)で測定が可能である為、初めて測定される方にお奨めのCa2+ プローブである。他方、Fura 2は2波長でほぼ同時に励起する必要がある(蛍光測定は1波長である)。その利点は、後に述べるが、同時に2波長(340 nmと380 nmなど)で励起する必要がある為、やや特殊な装置が必要となる。

3.蛍光プローブの解離定数(Kd値)が測定対象と合っているか?
解離定数とは、そのプローブがどれくらいのCa2+ 濃度でCa2+ と錯体を形成しやすいかを表す数値である。これは意外にご存じない方が多いのだが、測定したいCa2+ 濃度に合ったKd値を持つプローブを選択いただく必要がある。例えば、細胞質の場合は、Kd値が0.2 μmol/l 程度のFura 2 や、0.3 μmol/l 程度のFluo 4 が適している。適切ではないプローブを使用すると、小さなシグナル変化しか得られない(図2)。



表1Ca2+ 蛍光プローブの種類と蛍光特性
プローブ名
 励起波長 蛍光波長 Ca錯体解離定数(Kd)
文献
 339 nm 492 nm 115 nmol/l
1)
 340 nm/380 nm 510 nm 224 nmol/l
2)
 508 nm 527 nm 0.4 μmol/l
3)
Indo 1
 330 nm Cafree: 485 nm
 Cabound: 410 nm
 250 nmol/l
2)
 553 nm 576 nm 1.0 μmol/l
3)
Fluo 4
 495 nm 518 nm 345 nmol/l
4)


『プローブ濃度について』
プローブにCa2+ イオンを十分に結合させるには、Kd、Ca2+ 濃度(通常これは変えることはできない)の他にプローブの濃度も影響を与える。
Kd=[Ca2+][プローブ]/[Ca2+プローブ]の解離平衡の平衡定数がKdである。したがって、Ca2+プローブが十分に生成するには、Kd以外に、プローブ濃度も影響を与える。
プローブ濃度が高すぎると、細胞内に存在するCa2+ 結合タンパク質のCa2+ もプローブと結合することになる(これは、プローブのCa2+ に対するKd,タンパク質のCa2+ に対するKdによって影響される)。培養細胞の場合は1〜5μmol/l程度の濃度で30分から60分程度、導入時間を置くのが一般的である。

4.細胞内Ca2+ 濃度を算出する必要はあるか?
「そもそもCa2+ 濃度を求める為にプローブを用いるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、測定によって得られるのはあくまで蛍光強度であり、Ca2+ 濃度ではない。この蛍光強度をキャリブレーションという手段を用いて、Ca2+ 濃度に変換する必要がある。キャリブレーションには、大まかに言えば2種類の方法がある。1つは、invitroキャリブレーションで、細胞内のイオン環境を模した塩溶液中でCa2+ の濃度を変えて蛍光を測定し、蛍光強度とCa2+ 濃度の検量線を作成する方法である。
もう1つは、in vivoキャリブレーションで、プローブを導入した細胞をCa2+ イオノフォア(ionomycinやBr-A23187)で処理し、細胞膜のCa2+ 透過性を高めた後、細胞外の溶液を変えて蛍光を測定する方法である。プローブのCa2+ に対するKd値、最大蛍光値、最小蛍光値などから計算式で細胞内Ca2+ 濃度を算出する。一般的に、細胞内のCa2+濃度を算出する場合は、細胞の厚みやプローブの漏れ出し等の影響を受けにくい2波長励起のFura 2-AMを選択することが多い。


もう1 つは、in vivo キャリブレーションで、プローブを導入した細胞をCa2+ イオノフォア(ionomycin やBr- A23187)で処理し、細胞膜のCa2+ 透過性を高めた後、細胞外の溶液を変えて蛍光を測定する方法である。プローブのCa2+ に対するKd 値、最大蛍光値、最小蛍光値などから計算式で細胞内Ca2+ 濃度を算出する。一般的に、細胞内のCa2+ 濃度を算出する場合は、細胞の厚みやプローブの漏れ出し等の影響を受けにくい2 波長励起のFura 2-AM を選択することが多い。

in vivoキャリブレーションについては、小社のプロトコル集(http://www.dojindo.co.jp/technical/protocol.html)「蛍光で細胞内Caを測定したい」に方法の記載があるので、そちらをご参照いただきたい。

『キャリブレーションについての注意点』
ただし、これらのキャリブレーションによって正確なイオン濃度の絶対値が得られる訳ではない。Fura 2の解離定数としてはTsienらが報告2)した135 nmol/l、または224 nmol/lという値が広く用いられているが、細胞内の条件によりKd値は変わる。例えば、細胞内タンパク質とFura 2が結合すると、Fura 2のKd値は増加することが知られている5)
しかしながら、細胞内に取り込まれたFura 2がどの程度タンパク質と結合しているかを求めるのは事実上不可能であり、正確な解離定数は残念ながら不明である。したがって、細胞内の正確なCa2+ 濃度を求めることは事実上不可能である。
このような背景からか、論文表記では、Fura 2などの2波長励起の場合、ratiometry(2波長測定の蛍光強度比)の値をそのまま記載しているものも多い。Fluo 4などの1波長励起の場合は、測定開始時と比べて蛍光の変化率で表すこともある。

51 波長励起、2 波長励起のどちらを選択するか?
蛍光強度の変化率で議論する程度で良い場合は Fluo 4-AM などの1 波長励起のプローブをお奨めする。細胞内のCa2+ 濃度に応じて、蛍光強度が変化するこれらのプローブは、励起波長、蛍光波長のシフトもなく、初めての方にも理解しやすい測定系といえる。
「自分の測定したい薬剤を添加する前の蛍光強度( 相対値)を5000 とした場合、薬剤添加によって蛍光強度( 相対値) が20000 になった」などのデータを取得することが可能である。
ただし、1 波長励起のプローブの注意点は、細胞内に取り込まれるプローブの量や細胞の厚み、プローブの退色に応じて、蛍光強度が変化するところにある(図4)。

つまり、測定条件によるばらつきを受けやすいともいえるプローブである。これらの問題を解決できるのが、Fura 2 など2 波長励起の蛍光プローブである。Fura 2 は、Ca2+ 濃度が上昇すると、340 nm 励起による蛍光強度は増加するが、380 nm 励起の蛍光強度は減少する(図3)。これらの比(ratiometry)で議論することで、例え細胞に取り込まれたFura 2 の量が異なっても、比は一定となり、ばらつきの少ないデータ取得が可能となる。特に、細胞内のCa2+ 濃度を算出する場合は、このような2 波長励起のプローブを使用することが多い。



V 測定装置の選択

培養細胞を使用される方にとって、最も身近な蛍光測定装置は蛍光プレートリーダーと蛍光顕微鏡であろう。「蛍光プレートリーダーと96 well プレートを用いて、Ca2+ 濃度測定を行っているが、うまくいかない」といった問い合わせが小社に多く寄せられる。ここでは、簡便に蛍光プレートリーダーを使用して測定したい方の為に、蛍光プレートリーダーを使用したプロトコルを後に紹介する。

@

蛍光プレートリーダー


蛍光プレートリーダーで測定する場合は、インジェクター機能を搭載したタイプの装置が望ましい。理由は、薬剤応答による細胞のCa2+ 濃度は、添加後瞬時に起こる場合が多いからである。ただし、薬剤の種類によっては、添加後、徐々に細胞内のCa2+ 濃度が上昇し、ある程度上昇したまま一定な状態を保つものもある。このような薬剤であれば、添加後すぐに測定すれば、蛍光強度変化を追うことは可能である。ただし、一瞬(数秒程度)Ca2+ 濃度が上昇した後、すぐに減少してしまうタイプの薬剤であれば、測定時には蛍光強度が減少してしまっている可能性もある。また、蛍光プレートリーダーで測定する場合は、多くの細胞の蛍光強度変化の平均値を測定しているといった認識を持つことが必要である。蛍光顕微鏡で観察しながら、ionomycin などの薬剤を添加すると一目瞭然だが、細胞は全て同じ蛍光強度変化を起こしているとは限らない。細胞によっては、薬剤添加前から蛍光を発しているものもあるし、薬剤添加してもほとんど蛍光強度変化が起こらない細胞もある。プレートリーダーにおける励起光路に存在している細胞の蛍光強度変化が平均化され、蛍光強度変化となって数値が現れる。したがって、細胞の状態によって、蛍光強度が緩慢に変化したり、少数の細胞のみが大きく変化していても、測定値としてはほとんど変化が起こっていないといった結果となることがある点に留意しておく必要がある。また、励起光が当たる部分に、細胞が存在していない場合は、蛍光強度上昇が観察されないといった状況が起こり得る。

A

蛍光顕微鏡


本装置には倒立型で落射蛍光を利用できるタイプが多い。通常の光源としては水銀ランプが装着されているが、Fura 2 のように2 波長励起の際は、エネルギーの波長依存性が比較的均一なキセノンランプの方がよい。Fura 2 で測定する際は、二つの波長を交互に切り替える為の装置が必要である。Fluo 3 やFluo 4 は、B 励起フィルターがあれば観察が可能である。
細胞から発生した蛍光を数値化する場合は、CCD カメラを有する画像処理システムが必要である。それぞれの装置の原理や基礎の詳細は、各装置メーカーにご確認いただきたい。画像処理システムの種類によっては、一つの細胞の蛍光強度変化を追うことも可能である。




W プローブの溶解方法

細胞膜の透過性を得る為に、アセトキシメチル基を導入したAM 体のプローブは、脂溶性が高く水には簡単に溶解しない。したがって、DMSO などの溶媒を用いて一旦溶解した後、測定用の緩衝液と混合する必要がある。ただし、AM 体は水中で顆粒を形成して、緩衝液中に浮遊する。このような浮遊液では、細胞への取り込み効率が格段に低下する。このため、少量の界面活性剤(Pluronic F-127 やCremophor EL)を用いたり、超音波処理を行うなど、取り込み効率を上げる工夫が必要となる。


図5 Fluo 4 取り込み後の細胞写真(左:明視野/右:蛍光)



X 培養細胞を用いたプレートリーダー細胞内Ca2+ 濃度測定例

小社では、細胞内Ca2+ 濃度測定に必要な試薬をセットにしたCalcium Kit をご用意している。本キットには、 Ca2+ プローブの他に、溶解用のDMSO や界面活性剤のPluronic F-127、陰イオントランスポーター阻害剤のProbenecid もセットになっているため、初めて細胞内Ca2+ を測定される方にお奨めである。ここでは、キットを使用した例と試薬(Fluo 4-AM)を使用した例の2 つの実験例をご紹介する。

【実験例1】Calcium Kit とインジェクター機能を搭載した蛍光プレートリーダー使用(Infinite M200)

1. 試薬


Calcium Kit – Fluo 4 ( 同仁製品コード:CS22)


薬剤ATP


R細胞CHO 細胞 ( チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)


PBS ( リン酸緩衝生理食塩水:NaCl 8 g/l, KCl 0.2 g/l, KH2PO4 0.2 g/l, Na2HPO4 1.15 g/l)


プレートクリアボトムプレート(Nunc)
※クリアボトムでなくとも、上方励起上方蛍光測定が可能な機種では測定は可能だが、光学顕微鏡で細胞の状態を観察しながら測定できる為、クリアボトムプレートの方が使用しやすい。



2. 試薬調製(96 well プレート1 枚分)

1)

Fluo 4-AM DMSO solution 調製
Fluo 4-AM 50 μg( 1 本) にDMSO 50 μl を添加し、ピペッティングで溶解する。

2)

Loading Buffer 調製
Recording Medium(2×) 5 ml にFluo 4-AM DMSO solution 50 μl を添加する。必要に応じて細胞内へCa2+ プローブを取り込みやすくする界面活性剤Pluronic F-127( 最終濃度0.04 %(w/v))、細胞からCa2+ プローブを漏れ出しにくくするProbenecid( 最終濃度1.25 mmol/l) を添加し、全量が10 ml になるよう純水を添加する。ボルテックスミキサーや超音波を用いてよく混合する。

3)

Recording Medium(1×) の調製
Recording Medium (2×) 5 ml に50 μl のProbenecid(1.25 mmol/l) を添加し、全量を10 ml となるよう純水を添加した後、よく混合する。37℃ で加温しておく。


3. アッセイプロトコル(96 well プレート1枚分)

1)

細胞の浮遊液を調整し、1 well あたり40,000 cells / 100μl となるようプレートに分注し、CO2 インキュベーターで一晩培養する。
※細胞数が少なすぎると、well の淵に細胞が偏ることがある。中央の光路に確実に細胞を培養する為には、細胞密度 が80% 〜 90% コンフルエントの状態が望ましい。

2)

細胞を傷つけないように培地を除去する。血清成分が残っていると、Fluo 4-AM が分解することがある為、37℃ に加温したレコーディングメディウムPBS で細胞を数回洗浄する(細胞が剥がれやすい場合、洗浄は行わない)。

3)

100 μl/well のLoading Buffer を、それぞれのwell に加える。

4)

37℃ で1 時間、インキュベートする。
※ 1 時間以上のインキュベートは、プローブの局在化や漏れ出しの原因となる為、お奨めしない。37℃ で1 時間、インキュベートする。

5)

細胞を傷つけないようにLoading Buffer を除去する。加水分解したプローブはバックグラウンド上昇の原因となる為、37℃ に加温したレコーディングメディウムPBS で細胞を数回洗浄する(細胞が剥がれやすい場合、洗浄は行わない)。

6)

予予め37℃ に加温しておいたRecording Medium(1×)を、100 μl/well ずつ加える。

7)

薬剤(ATP)添加による蛍光強度変化を、プレートリーダーにて測定する。

例)Infinite M200(蛍光マイクロプレートリーダー)の場合の設定条件
Plate Definition
Part of Plate
Kinetic Cycle
Kinetic condition
Injection
Fluorescence Intensity
96well Flat Black microplate
Select rows
100 cycles
Handling for cycle 10
Injector A injects 20 μl with speed 100 μl/sec.
Ex.485 nm/Em.535 nm, gain 100


4. 結果
CHO 細胞を用い、ATP( 終濃度 25 μmol/l)刺激による Ca2+ 濃度変化を測定した。10 秒後に ATP を添加すると、蛍光強度が上昇し細胞内のCa2+ 濃度が上昇していることが確認できた。



【実験例2】Fluo 4-AM special packaging とインジェクター機能なしの蛍光プレートリーダー使用
      (TECAN GENios)

1. 試薬


Fluo 4-AM special packaging ( 同仁製品コード:F312)


薬剤ionomycin free acid (ALS)


PBS ( リン酸緩衝生理食塩水:NaCl 8 g/l, KCl 0.2 g/l, KH2PO4 0.2 g/l, Na2HPO4 1.15 g/l)


Pluronic F-127 (Sigma)


Probenecid ( 和光純薬工業)


細胞CHO 細胞 ( チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)


プレートクリアボトムプレート(Nunc)


レコーディングメディウム(1×)
1) 下記の表2 の試薬を1 L ビーカーに入れ、約800 ml 程度の超純水に溶解する。
2) 4 mol/l KOH を用いてpH7.4(25℃)に調整した後、超純水を加えて全量を1 L にする。
3) 0.2 μm 滅菌フィルターでフィルター滅菌後、冷蔵(4℃)で保存する。
※ オートクレーブ滅菌は不可

表2 レコーディングメディウム(1×)の組成
濃度
試薬
必要量
分子量
20 mmol/l
HEPES
 4.77 g 238.31
115 mmol/l
NaCl
 6.72 g 58.44
5.4 mmol/l
KCl
 0.40 g 74.55
0.8 mmol/l
MgCl2
 0.076 g 95.21
1.8 mmol/l
CaCl2
 0.20 g 110.98
13.8 mmol/l
glucose
 2.49 g 180.16

2. 試薬調製(96 well プレート1枚分)

1)

Fluo 4-AM DMSO solution 調製
Fluo 4-AM 50 μg(1 本) にDMSO 15.2 μl を添加し、ピペッティングで溶解する(3 mmol/l ストック溶液)。

2)

Loading Buffer 調製
レコーディングメディウム(1×) 10 ml にFluo 4-AM DMSO solution 10 μl を添加する( 終濃度 3 μmol/l)。必要に応じて、Pluronic F-127( 最終濃度0.04%, 0.4 mg/ ml)、Probenecid ( 最終濃度1.25 mmol/l, 0.36 mg/ml) を添加する。
※ CHO 細胞はPluronic F-127、Probenecid を添加しなければ、取り込み効率は極端に低い。
※ Pluronic F-127 とProbenecid が溶けにくい場合は、超音波を用するとよい

3)

測定用レコーディングメディウムの調製
レコーディングメディウム(1×) 10 ml にProbenecid ( 最終濃度1.25 mmol/l, 0.36 mg/ml) を添加する。

4)

刺激用ionomycin 溶液の調製
Ionomycin free acid にDMSO を添加し、1 mmol/l DMSO ストック溶液を調製する。レコーディングメディウム(1x)もしくはPBSを用いて希釈し、10 μmol/l ionomycin 溶液を調製する。


3. アッセイプロトコル(96 well プレート1枚分)

1)

細胞の浮遊液を調整し、1well あたり40,000 cells / 100μl となるようにプレートに分注し、CO2 インキュベーターで一晩培養する。
※細胞数が少なすぎると、ウェルの淵に細胞が偏ることがある。中央の光路に確実に細胞を培養する為には、細胞密度が80% 〜 90% コンフルエントの状態が望ましい。

2)

細胞を傷つけないように培地を除去する。血清成分が残っていると、Fluo 4-AM が分解することがある為、37℃ に加温したレコーディングメディウムPBS で細胞を数回洗浄する(細胞が剥がれやすい場合、洗浄は行わない)。

3)

100 μl/well のLoading Buffer を、それぞれのwell に加える(必要に応じて、Loading Buffer を添加する前に、37℃に加温したレコーディングメディウムPBS で細胞を洗浄する)。

4)

37℃ で1 時間、インキュベートする。
※ 1 時間以上のインキュベートは、プローブの局在化や漏れ出しの原因となる為、お奨めしない。

5)

細胞を傷つけないようにLoading Buffer を除去する。加水分解したプローブはバックグラウンド上昇の要因となる為、37℃ に加温したレコーディングメディウムPBS で細胞を数回洗浄する(細胞が剥がれやすい場合、洗浄は行わない)。

6)

予め37℃ に加温しておいた測定用レコーディングメディウムを、100 μl/well ずつ加える。

7)

薬剤添加前の蛍光強度をkinetics モードで数回測定する。測定well を指定するなどし、kinetics の測定間隔を最小値とする。

8)

プレートを取り出し、マイクロピペットで薬剤(10 μmol/l ionomycin)を10 μl 添加し( 終濃度0.9 μmol/l)、薬剤添加後の蛍光強度をkinetics モードで数回測定する。測定well を指定するなどして、kinetics の測定間隔を最小値とする。
※ Ca2+ 濃度変化は瞬時に起こる為、薬剤添加後は、速やかに測定すること。
※ 蛍光強度は相対値である為、プレートリーダーの感度の設定を薬剤添加前の条件と一致させること。

例)ECAN GENios(蛍光マイクロプレートリーダー)の場合の設定条件
Measurement mode
Kinetic interval
Fluorescence Intensity
Measurement mode
Part of Plate
Kinetic Cycle
Fluorescent Bottom
7 sec.
Ex.485 nm/Em.535 nm, gain 80 (manual)
Fluorescent Bottom
1 well 指定
20 cycles ( 添加前4 cycles)


4. 結果
CHO 細胞を用い、ionomycin( 終濃度 0.9 μmol/l )刺激による Ca2+ イオン濃度変化を測定した。



図9. CHO細胞をionomycin刺激した際の蛍光強度変化


5. 測定時の注意点
Fluo 4-AM は冷凍にて保存する。
Fluo 4-AM をDMSO に溶かした状態で長期保存及び凍結融解を繰り返すと、Ca2+ プローブが分解する可能性がある。
一度に使い切らない場合は、一回ずつ小分けして冷凍保存する。
・Loading Buffer は用時調製する。保存したものはFluo 4-AM が加水分解を受け、細胞への導入効率が著しく低下する。


Y トラブルシューティング

目的の薬剤を添加し、蛍光強度の変化(細胞内のCa2+ 濃度の上昇)を観察できた場合は一安心だが、蛍光強度の変化が思うように得られず、苦労されている方も多い。ここでは、基本的なトラブルシューティングの仕方をご紹介する。
蛍光強度変化が得られない場合、考えられる主な原因は次の3つである。
1.装置の設定条件(フィルターなどの検出系、励起光および蛍光検出の方向など)に問題がある。
2.Ca2+ プローブが細胞内に導入できていない。
3.薬剤が適していない(濃度や種類など)。

問題を解決するには、面倒かもしれないが、上記3 つの要点を上から一つずつ解決していくことをお奨めする。
それぞれの確認方法を以下にご紹介する。


A. 装置の設定条件やフィルターがCa2+ プローブに適しているかの確認方法
Fluo 4-AM を強制的に加水分解し、蛍光強度の上昇を確認する。
<手順>
1)96 well プレート(細胞なし)の各well にPBS、10%血清入り培地、0.1 mol/l NaOH をそれぞれ100 μl ずつ添加する(図11上)。
2)次いでLoading Buffer 100 μl を入れ、37℃ で1 時間インキュベートする。Fluo 4-AM はアルカリや血清によって加水分解される。
3)蛍光プレートリーダーで測定する。
PBS+ Loading Buffer のwell の蛍光強度と比較して、NaOH や血清入り培地を入れたwell の蛍光強度が変化していない場合、装置やフィルターに問題がある為、装置の設定を再度確認する。細胞内の蛍光強度変化は非常に微小である為、蛍光検出感度が低下しているプレートリーダーを用いた場合、蛍光強度の上昇が検出できない場合もある。


B. Ca2+ プローブが細胞内に導入できているかの確認方法
蛍光顕微鏡で直接観察するか、Ca2+ イオノフォア(ionomycin やBr-A23187)で処理し、細胞膜のCa2+ 透過性を高めた後、蛍光強度の上昇を確認する。

<手順>
1.蛍光顕微鏡が使用できる場合は実際に細胞を観察する。
Fluo 4 の場合は、細胞へCa2+ プローブが導入されている場合、わずかに蛍光が観察される。Fura 2 やFluo 3 はFluo 4 に比べて感度が低い為、観察できないこともある。
 
図12 CHO 細胞にFluo 4-AM を負荷した後、薬剤(ionomycin) 刺激し、15 秒毎に観察



2. 蛍光顕微鏡が使用できない場合は、以下の方法のどちらかで確認する。

【方法1】Ca2+ イオノフォアとGEDTA(EGTA) を用いる方法
1)1 mmol/l ionomycin solution 10 μl に レコーディングメディウムPBS 990 μl を添加し、10 μmol/l ionomycin 溶液を調製する。
※ ionomycin free acid をDMSO にて溶解し、1 mmol/l のストック溶液を調製するとよい。細胞の種類によっては、Br-A23187 などのイオノフォアを使用する。
2)薬剤の代わりに終濃度1 μmol/l 程度になるように、ionomycin 溶液10 μl を添加し、素早く蛍光強度変化を測定する。
細胞への取り込みが行われていれば、蛍光強度変化が起こる。
3)次に100 mmol/l GEDTA solution 12 μl を添加し(終濃度10 mmol/l)、5 分程度37℃ でインキュベーション後、蛍光強度変化を測定する。Ca2+ プローブが細胞内へ取り込まれていれば、蛍光強度の減少が観察される。
※ 100 mmol/l GEDTA solution の調製方法
  GEDTA( 同仁製品コード:G002)380 mg を PBS またはレコーディングメディウム(1×) 10 ml に溶解する。

Ionomycin などのCa2+ イオノフォアは細胞膜のCa2+ 透過性を強制的に高める薬剤なので、細胞内にCa2+ プローブが取り込まれていれば、蛍光強度の上昇が観察される。
一方、GEDTA(EGTA) はCa2+ キレート剤である為、ionomycinを 添加した状態で細胞外へGEDTA を添加すると、細胞内のCa2+ 濃度が低下し、蛍光強度が低下する。
Ionomycin 溶液およびGEDTA の添加により、蛍光強度変化が観察されなければ、細胞へCa2+ プローブが取り込まれていない 可能性がある。以下のトラブルシューティング【トラブル1】を参考に解決を試みる。

【方法2】細胞膜を溶解し、細胞中のプローブの有無を確認する方法
<手順>
1)10% Triton X-100(細胞膜を溶解する界面活性剤)を PBS で調製する。
2)薬剤の代わりに終濃度1% 程度になるように、Triton X-100 溶液10 μl を添加し、数分後蛍光強度変化を測定する。
細胞への取り込みが行われていれば、細胞膜が溶解することにより漏れ出たCa2+ プローブが、レコーディングメディウム中のCa2+ とプローブが結合し、蛍光強度変化が観察される。
※ Triton X-100 溶液を添加する前に細胞外のCa2+ プローブは洗浄除去しておくこと。

1% Triton X-100 を添加した際、蛍光強度に大きな変化がなければ、細胞へCa2+ プローブが取り込まれていない可能性がある(測定系に問題がないことを確認していることが前提)。以下のトラブルシューティング【トラブル1】を参考に解決を試みる。

【トラブル1】細胞内にCa2+ プローブが取り込まれていない
考えられる要因
解決方法
Ca2+ プローブが加水分解しており、細胞内
に導入されていない。
新しいCa2+ プローブを用いてLoading Buffer を調製する。
Ca2+ プローブはDMSO 中に含まれる水分によっても加水分解される。開封後、時間が経ったDMSO の使用は避けること。
細胞内に取り込まれたCa2+ プローブが排出
されている。
@Loading Buffer 調製時に添加するProbenecid の濃度を1.25 mmol/l から2 mmol/l 程度まで濃くする。
AProbenecid 溶液をRecording Medium に添加し、漏れ出しを防ぐ。
Ca2+ プローブのDMSO 溶液とRecording
Medium がよく混合されていない。
@Pluronic F-127 を使用していない場合は、添加する。
ACa2+ プローブのDMSO 溶液とRecording Medium を混合した際、超音波を数秒程度当てる。
細胞内のエステラーゼ活性が極端に低い。細胞の性質が原因の為、そのままでの測定は難しい。細胞の種類を変更することが可能であれば、細胞の種類を変える。


【薬剤が適していない(濃度や種類など)場合の確認方法】
 Ionomycin 溶液で蛍光強度変化が観察されるのに、目的の薬剤で蛍光強度変化が観察されないもしくは、蛍光強度変
化が思うように得られない場合は、以下の【トラブル2】、【トラブル3】を参考に薬剤刺激の問題点を解決する。


【トラブル2】目的薬剤で蛍光強度変化が観察されな
      (ionomycin で蛍光強度変化が観察されていることが前提)
考えられる要因
解決方法
薬剤の濃度が高すぎる、もしくは低すぎる。
Ca2+ 応答が起こらない性質である。
使用する薬剤濃度を変化させて検討する。蛍光強度変化が出ない場合、高濃度に薬剤を添加しようとする方も多いが、薬剤濃度が高すぎると、細胞が結果的に死滅して、シグナルが得られない場合もある。薬剤の低濃度側も検討する必要がある。


【トラブル3】細胞のCa2+ 応答シグナルが弱い、細胞のCa2+ 応答が遅い、応答が緩慢である
考えられる要因
解決方法
薬剤の濃度が高すぎる、または低すぎる。使用する薬剤濃度を変化させて検討する。蛍光強度変化が観察されない場合、高濃度に薬剤を添加しようとする方も多いが、薬剤が高濃度すぎると、結果的に細胞が死滅して、蛍光強度変化が観察されない場合もある。薬剤の低濃度側も検討が必要である。
加水分解を受けたCa2+ プローブがRecording Medium 中に存在しており、バックグラウンドを上げている。Loading Bufferを除去した際の洗浄が不足している。Loading Buffer を除去した後、37℃ に加温したレコーディングメディウムPBS で数回洗浄する。細胞が剥がれやすく、洗浄できない場合は、Non-Wash タイプのCalcium Kit(製品コード:CS32)の使用で解決できる場合もある。
細胞の状態が悪い。薬剤添加によって蛍光強度変化が起こる細胞と起こらない細胞が混在している為、緩慢な蛍光強度上昇が観察されることがある。
@前培養の時間を長く取り、細胞の状態が回復した状態で測定する。
Aインキュベート時間を1 時間から30 分に短縮する。長時間のインキュベートは細胞に損傷を与える原因となる。
BDMSO 含量やFluo 4-AM の濃度を下げる(DMSO やプローブの毒性を低減する)。
C血清入り培地を除去せず、Loading Buffer を添加する。血清が入ることで、細胞への影響を低減させることが可能な場合もある。


Z 関連製品

<キット品>
製品名
容量
品コード
備考
Calcium Kit U-iCellux
10 plates
Non wash タイプFluo 4 より高感度
Calcium Kit-Fluo 3
2000 assays
Wash タイプ 大容量スクリーニング用
Calcium Kit-Fluo 4
10 plates
Wash タイプ 初心者におすすめ
Calcium Kit U-Fluo 4
10 plates
Non wash タイプはがれやすい細胞の測定に便利
Calcium Kit-Fura 2
10 plates
Wash タイプRatiometry 測定が可能
Calcium Kit U-Fura 2
10 plates
Non wash タイプRatiometry 測定が可能


< Ca2+ 蛍光プローブ>
製品名
容量
品コード
備考
Fluo 3-AM special packaging
50 μg × 8
50 μg 小分け品少量で測定される方におすすめ
Fluo 3-AM
1 mg
頻繁に測定される方におすすめ
Fluo 3
1 mg
細胞内Ca2+ 濃度測定には使用できない
Fluo 4-AM special packaging
50 μg × 8
50 μg 小分け品少量で測定される方におすすめ
Fluo 4-AM
1 mg
Fluo 3 より高感度
Fura 2-AM special packaging
50 μg × 8
50μg 小分け品少量で測定される方におすすめ
Fura 2-AM solution
1 ml
溶液タイプ溶解操作が不要
Fura 2-AM
1 mg
Ratiometry 測定が可能
Indo 1-AM solution
1 ml
Ca2+ 濃度に伴い蛍光波長が変化する
Rhod 2-AM
1 mg
高濃度領域でのCa2+ 濃度に適する
Rhod 2
1 mg
細胞内Ca2+ 濃度測定には使用できない
Quin 2
100 mg
細胞内Ca2+ 濃度測定には使用できない


<その他関連試薬>
製品名
容量
品コード
備考
GEDTA(EGTA)
5 g
Ca2+ キレート剤キャリブレーション時に使用
HEPES
25 g
レコーディングメディウムに使用



[ 参考文献

1)

R. Y. Tsien, "New calcium indicators and buffers with high selectivity against magnesium and protons: design, synthesis, and properties of prototype structures.", Biochemistry., 1980, 19, 2396.

2)

G. Grynkiewicz, M. Poenie and R. Y. Tsien, "A new generation of Ca2+ indicators with greatly improved fluorescence properties.", J. Biol. Chem., 1985, 260, 3440.

3)

A. Minta, J. P. Y. Kao and R.Y. Tsien, "Fluorescent indicators for cytosolic calcium based on rhodamine and fluorescein chromophores.", J. Biol. Chem., 1989, 264, 8171.

4)

K. R. Gee, K. A. Brown, W-N. U. Chen, J. Bishop-Stewart, D. Dray and I. Johnson, "Chemical and physiological characterization of fluo-4 Ca(2+)-indicator dyes.", Cell Calcium, 2000, 27, 97.

5)

M. Konishi, A. Olson, S. Hollingworth and S. M. Baylor, "Myoplasmic binding of fura-2 investigated by steady-state fluorescence and absorbance measurements.", Biophys. J., 1988, 54, 1089.

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